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2011年11月23日

「まるで恋だね」妄想まとめ・3



最終話パラレル。
本編には入れられないだろうなーという妄想話。
お題を見てから数時間ツイッターのタイムラインを無双してきた。

庄太夫率いるシブチャリ篭城軍は完全燃焼する一方で、
松前泰広は庄太夫を通して感じたこと考えたことがもとになり、
アイヌや松前のあり方に煮え切らない思いを抱いて帰還する......
というのを考えていて、それじゃ泰広さんがなんだか救われないな、と。
彼に救いをあげたかった話。
ここからまた話が広がって本編の最終話を構築していくっつうね。
楽しいよ、創作妄想、楽しいよう……!

ヘイラッシャイ。べらぼうに長いよ。まさかの4000字ごえ。
もとの投稿より若干手直ししました。

【お題】いつもの二人の『ひとりにしないで』という台詞を使った
「ロマンティックな場面」を作ってみましょう。
   ↓


「さようなら、和のひと」それが彼に向けられた最期の言葉だった。
彼は「さようなら、あいの、ひと」と返した。
アイノ、とは蝦夷の言葉で人間を意味し、敬いの意味が込められている。そこに彼は愛と哀をかけた。

火をかけられて歪んでいく顔、大気を裂く断末魔、生き物を焼く臭い。誰もが顔を背けた。
ある者はその場から逃げ、ある者は嘔吐し、ある者は泣き崩れ、ある者はその凄まじさに腰を抜かす。
彼は動じることなく、全てを見届けた。

濡れた雪に白んだ浜へ、炭が穴のように広がっている。
日は傾き、雲に隠れていた。風が湿気ってまた雪を予感させる。いいや、今夜は雨かもしれない。
誰かが呼んだような気もしたが、彼は構わずに炭へと近づき、膝を突く。
炭を静かになぞる。感情がわいてこなかった。

いやに冷静だった。この炭になる前に言われた言葉を思い出す。
「そんな顔をしないでください。笑ってくださいよ、あなたは勝ったんですから」
……そんなに私はひどい顔をしていたのか、いや、していたのだろう。
あのとき、呑み込んだ言葉があったのだから。

彼は自嘲した。情けない笑いが込み上げる。
「……いい加減にお戻りください、風邪をひいてしまいます」
声に振り向き立ち上がる。そこには佐藤がいた。
「……指示を。それとも今日は解散なさいますか」

……まだ終わっていない。そう小さく心に言い聞かせる。
「首謀者の処刑は終わった。
しかし、ウラカワへ逃れた連中を野放しにできない。対策を練る。集めろ」

それから地元の者共が警戒にあたることとなり、彼は一度江戸へ戻ってことの一部始終を報告することにした。
雪の多い冬の蝦夷地には居たくなかった。
……居たくなかった。向き合えなかった。報告書のため、筆をとっても全くはしらなかった。

江戸でも雪がちらつく。町の者たちは珍しがり、やや陽気になる。
鉛色から舞い降りる白を眺め、彼は炎上していくシブチャリの丘――マウタを思った。
炎に照らされた若草色のカパラミプ、透かし彫りの桜、瞳の奥に見えた覚悟と闇。
……まだ終わっていない。

報告書が半分手付かずのまま、年を越して彼は再び蝦夷地へと渡った。
ウラカワ勢を鎮めなければならない。
松前では雪も減り、桜がわずかに芽を覗かせていたが、シブチャリまで来ると雪の間から遅い福寿草が咲いていた。

ウラカワ勢とは多少の交戦があったものの、ここでも分断策と交渉が効を成し、互いに死傷者を殆ど出さずにウラカワ勢の降伏で幕を閉じた。
地元の蝦夷同士でもめたらしいが、あっさりとしたものだった。
クンヌイでの戦いを思うと物足りなさすら感じる。
いや、これでいい。これで終われる。
彼は自分に言い聞かせることが増えたなと思った。

ウラカワから海沿いにシブチャリを通り、ピポクまで戻ってきた。
彼は行くときも見た、かの浜を見る。
あの男が終焉を迎えた地。
否、自らの手で処刑した地。
不意に胸が締め付けられた。
終わったのだ、全て。

炭をなぞったときの指の黒が思い出される。
……終わった。
若草色のカパラミプ。
……終わった。
「彼がシャグセンの娘婿、庄太夫です」
終わった。
「どうやら総大将はシャグセンではない模様」
終わった
「奇襲か」
終わっ
「押されています」
終わ

「笑ってください」

終わっていない。

――気が付くと見知らぬ場所に立っていた。
蝦夷の集落のようだったが。それもシブチャリにあったものよりも家の数がある。
しかし人影はなかった。大きく見渡してみる。
家があるだけだ。空は晴れているがどこかそっけない。
なぜ、私はこんなところに――そう思い、ため息をつく。
ふっと視界の端にあの色が見えた。

あの色、若草色のカパラミプ。
どくん、という音が全身に響く。思わず胸に手をあてる。
カパラミプは家の陰に消えた。すかさず後を追う。
陰の消えた家まで来たが、何も居なかった。
おそるおそる家の周りを一周する。やはり何も居ない。
むなしさが胸にこみ上げてくる。
すると、あのカパラミプが見えてまた家の陰に消えていった。

また後を追いかける。
また何もいない。
カパラミプが見える。
追いかける。
気持ちが焦りだす。
何もいない。
カパラミプが見える。
追いかける。
何もいない。
悲しくなる。
地面を凝視する。

何をしているのだ、私は。影……影なんぞ追って。
「探しものかい」
聞いたことのない、若い男の声がした。
顔を上げると蝦夷と分かるあの特徴ある着物を纏った青年が立っていた。

青年は尋ねるより先に口を開く。
「アンタ、シサムだろ。本当はさ、アンタが来ていい場所じゃない。
いいや、生きた人間が来ていい場所じゃないんだ。
みんな、会いたいのは同じだからね」
――会いたい、その言葉に反応してじわりと胸がきしむ。

「俺はアンタの心の叫びに呼ばれた。
今度は心で叫ぶんでなしに、アンタの声で叫びなよ。
ここにはアンタを縛るものなんてない。
彼が初めてシブチャリの土を踏んだときと同じように」

――彼。

同じシサムでありながら松前に牙を剥いた男。
その知謀で松前と江戸を手こずらせた男。
守りたいはずの藩が腐敗して虚無感を抱いていた私に、戦う意味をくれた男。
蝦夷と暮らし、愛し、シブチャリのために魂燃やした男。
何かのために、生きた、男。
その男の面影がまぶた裏をちらつく。
喉の奥が熱くなり、その名がこぼれる。

「庄太夫……」

我に返ると青年の姿はなくなっていた。
そしてまた家の陰に若草色のカパラミプが見えた。

縛るものなんてない――
処刑の前日にやり取りした光景を思い出す。
庄太夫は言っていた、藩を抜けて嫁を選んだと。
援軍に来た久保田(秋田藩)の者が言っていた、庄太夫は裏切ったと。
隠密の役目を捨てて新しい道を選んだ男。
新しい道を選んだがゆえに、覚悟極めて戦いを挑んだ男。
高い志、熱き魂、戦に踊ってしまった闇、その覚悟を極めた瞳の光は私の心を貫いた。
交わした言葉は少なかったが、瞳の奥からそれが伝わってきた。

あの日、庄太夫は私に語りかけていた。きっと気のせいではない。
蝦夷とともに暮らしながらも蝦夷になりきれなかった、男の、心の声。
一度視線がぶつかるとお互いにしばらく離せなかった。
蝦夷とシブチャリの仲間のために戦いながら、胸にくすぶらせた思い。
私にだけ聞こえた声。
おれはやっぱりシサムだ。

お前がいたから、私は合戦の間、自由になれた。
あなたがいたから、おれたちはまとまっていられた。
お前が戦で応えてくれたから、私の好奇が満たされた。
あなたの見事な戦いに心が躍った。
お前が命をかけてくれたから、私の魂が目覚めた。
あなたにおれの生き様を焼き付けたかった。
なあ、庄太夫、私たちは、似ていたのだろうか……

「笑ってくださいよ、あなたは勝ったんですから」

「庄太夫、私をひとりにしないでくれ」

あのとき、呑み込んだ言葉。
私の役割が言わせてくれなかった言葉。
藩、幕府、松前、蠣崎、あげていけばきりがないほど私の肩にかかっていた。
藩と幕府に楯突いた重犯罪者に、かけられる言葉など限られていた。
どこで何を聞かれ、揚げ足をとられるか分からない状況、諸藩が援軍に来てもその腹では松前の崩壊を狙っている。
私が江戸にいるのも松前を守るため、私は、私の心に従うことなどできなかった。

もっと言葉交わしたかった。
もっと戦ってみたかった。
もっと見ていたかった。
もっと生きていてほしかった。
もっと違う形で出会いたかった。

「松前殿」

声に振り返る。
静かな風が流れた。
「ひどい顔してる」
声の主は笑っていた。
若草色のカパラミプを纏った、野花のように素朴で、しかし、逞しく、どこか可憐な。
「松前のトノがそんなんでどうするの」

「失敬な」
一度顔を拭って男と向き直る。
「全部お前のせいだ、私がどれだけ苦悩したと思っている」
男は考えたようなしぐさをしてから手を振った。
「んーん、さっぱりわからないや。でも、今の松前殿はいい顔になってるよ」
男がいたずらっぽく笑って見せる。

その言葉にはっとした。
いつの間にか心が軽くなっている。
一瞬無言になった私を見て、男は申し訳なさそうに笑って見せた。
「さっきの言葉、ずっと、言いたかったんだね……」
処刑の日を思い出す。あれから、約半年。
「そうだったらしい……実際はひとりでもなんでもないのにな」
「あら、この人ったら強がっちゃって」

自然と頬がゆるんだ。男も控えめに声を出して笑う。
そうか、私は、この男となんのしがらみのない、ごくありふれた会話をしたかったのだ――。

「私はひとりじゃない」
「うん、ひとりじゃない。さ、そろそろ行かないと危ないよ。ユーレイの嫉妬を買っちゃうんだから」
「それは怖い」
「あなたの活躍、ここから祈ってるよ。道中お気をつけて」
「ありがとう。私からは心より冥福を」
「ふふ、変なの」
「確かに」

互いに笑いあい、握手を交わして肩を抱く。かすかにはまなすの香りがした。

――気がつくと質素な小屋に居た。金堀の休憩所であった。
私は突然倒れたのだという。
あとから知ったのだが、蝦夷の伝説にはあのあたりにアフンルパラと呼ばれる冥界と現世をつなぐ穴があるらしい。
そして故人や神からのお告げがあるときは、急に意識を失うとも。

実にあの男らしい――。
私は生きよう、あの男にも負けない命の炎を見せつけてやる。
そして次、シブチャリへ来るときは亡くなった者たちに花を、生きる者には酒と肴を。

―――後に松前泰広はその勤労等活動を評価されることとなる。

「松前殿……あの行動は、まるで恋だね。……そう言うおれもか、ふふ」
無人のコタンで春を運ぶ空にそっとつぶやく。
あの人に届けと願いながら。
「……さようなら、和のひと。ありがとう、日ノ本の侍。おれは行くよ、蝦夷といっしょに」
若草色のカパラミプをかえし、庄太夫は仲間のもとへ駆けていった。



二人が去ったコタンに、その青年は現れて言葉をもらした。
「これで二人とも心が軽くなったかな。
しかし……ああ、いいな。できるんだったら俺も吉平に会いたいや」


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